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最高裁判所第一小法廷 昭和62年(し)45号 決定 1990年10月17日

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  弁護人藤堂真二外二二名の本件抗告の趣意(特別抗告申立書、同理由補充書四通を含む。)のうち、原決定の不服申立の手続に関する主張について

所論は、旧刑訴法の下において有罪判決を受けた再審請求人には、控訴院のした再審請求棄却決定に対し大審院へ即時抗告を申し立て、再度の事実審理を受ける機会を保障されていたのであるから、このような機会を奪った裁判所法、刑訴応急措置法、刑訴法施行法の各規定は憲法一一条、一三条、三一条、三二条、一四条一項に違反すると主張するものである。

しかしながら、裁判権及び審級制度については、憲法八一条に規定が置かれているだけで、その外の内容に関しては、憲法は法律の定めるところに一任したものと解すべきことは、当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第五六号同二三年二月六日大法廷判決・刑集二巻二号二三頁、同二二年(れ)第四三号同二三年三月一〇日大法廷判決・刑集二巻三号一七五頁、同二二年(れ)第一二六号同二三年七月一九日大法廷判決・刑集二巻八号九二二頁、同二三年(れ)第一六七号同年七月一九日大法廷判決・刑集二巻八号九五二頁)の繰り返し判示するところである。もっとも、右各判例も、裁判権及び審級制度に関する定めにつき、立法機関の恣意を許すとする趣旨ではなく、それなりに合理的な理由の必要とされることを当然の前提としているものと解すべきであるが、裁判所法七条が最高裁判所の裁判権を「上告」と「訴訟法において特に定める抗告」に制限し、そのため旧刑訴法の下で言い渡された有罪の確定判決に対する再審事件に関する最高裁判所への不服申立としては、刑訴応急措置法一八条による特別抗告しか認められず、右条項によれば、「決定又は命令において法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかについてした判断が不当であることを理由とするときに限り」抗告することができるとされたのは、憲法により最高裁判所に付託された役割を全うさせる趣旨によるものである。その後、現行刑訴法が施行された際、刑訴法施行法二条が「新法施行前に公訴の提起のあった事件については、新法施行後も、なお旧法及び応急措置法による」と規定しただけで、再審事件に関し格別の例外的規定を置かなかったのも、覆審制度の下で旧刑訴法及び刑訴応急措置法の手続により審判された事件の再審事件を、事後審制度に改められた現行刑訴法の手続により行うのは適切でないと考えられたためである。以上のとおり、右各規定の定めにつき、合理的な理由がないとはいえないというべきである。そうすると、所論指摘の裁判所法、刑訴応急措置法、刑訴法施行法の各規定が憲法一一条、一三条、三一条、三二条、一四条一項に違反するものでないことは、当裁判所の前記各大法廷判例の趣旨に徴し明らかであって、所論は理由がない。

次に、所論は、本件再審請求についても現行刑訴法四二八条二項及び四一一条三号の準用がある旨主張するものであるが、刑訴法施行法二条は、同法三条及び三条の二に該当する場合を除き、現行刑訴法施行前に公訴の提起があった事件については、旧刑訴法及び刑訴応急措置法によると規定しているのであるから、本件のように、旧刑訴法の下において有罪の確定判決を受けた事件に対する再審請求に関しても、旧刑訴法及び刑訴応急措置法のみが適用されるのであって、現行刑訴法四二八条二項及び四一一条三号は準用されないものと解すべきである。このことは、当裁判所の判例(昭和二四年(れ)第二三二号同二五年七月一九日大法廷判決・刑集四巻八号一四二九頁、同二六年(し)第四七号同二八年六月一〇日大法廷決定・刑集七巻六号一四一九頁、同三七年(し)第一一号同年一〇月三〇日大法廷決定・刑集一六巻一〇号一四六七頁、同四〇年(し)第九八号同四二年七月五日大法廷決定・刑集二一巻六号七六四頁)の趣旨に徴し明らかであり、所論は理由がない。

二  同弁護人らのその余の抗告の趣意について

所論のうち、被告人の自白に関し憲法三六条、三八条一項違反をいう点の実質は、原決定の判断遺脱及び原審の職権による事実の取調べに関する違法をいう単なる法令違反の主張であり、その余は、憲法三一条、三二条違反をいう点を含め、その実質は、すべて弁護人提出の証拠書類及び証拠物につき原決定が旧刑訴法四八五条六号の「明確ナル証拠」に当たらないとした判断を争い、又は原決定の判断遺脱をいう単なる法令違反の主張及び事実誤認の主張であって、いずれも刑訴応急措置法一八条の適法な抗告の理由に当たらない。

三  よって、刑訴法施行法二条、旧刑訴法四六六条一項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 橋元四郎平 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷厳 裁判官 大堀誠一)

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